東京高等裁判所 昭和56年(ネ)1698号 判決
民法五五〇条が書面によらない贈与を取り消し得べきものとしたのは、贈与者が軽率に贈与することを防止するとともに、贈与者の意思を明確にして後日の紛争を避けようとすることにある。右の立法の趣旨からすると、同条にいう書面というためには、贈与の当事者間において贈与者が自己の財産を相手方に与える慎重な意思を明確に看取し得る書面であれば足りるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定の各事実によれば、控訴人は、被控訴人に対し本件各土地(本件農地四筆及び本件宅地一筆)を贈与したのであるが、そのうち本件農地については所有権の移転について農地法三条の規定に基づく長野県知事の許可が必要であることから、被控訴人が先に譲受人として署名した申請書二通に譲渡人として署名し、かつ、実印をもって捺印したものであって、右署名捺印当時、申請書には目的土地の表示について何の記載もなかったものではあるけれども、右書面の趣旨に前記認定の本件贈与に至る経緯を併せ考慮すると、控訴人は、本件農地四筆を被控訴人に贈与する慎重かつ明確な意思に基づき、土地の表示その他の記載を被控訴人に一任した上、右書面に署名捺印したものと認められるから、右書面は、本件農地四筆の贈与につき、民法五五〇条にいう書面に当たるものと解するのが相当である。
(近藤 川上 渡邉)